採用サイトを読んで、説明会の動画を 2 本見て、ノートに「理念」「事業内容」「福利厚生」を書き写す。2 時間かかった。それでも面接で「ほかの会社ではなく、なぜうちなんですか」と聞かれると、言葉が出てこない。企業研究のやり方が分からない、という悩みは、たいていこの形をしています。
先に答えを書くと、企業研究は会社の情報を集める作業ではありません。自分が知りたい問いを先に決め、それを出所の違う 3 か所で確かめて、それでも残った問いを面接に持っていく作業です。問いが決まっていれば、調べる量はむしろ減ります。
企業研究とは、会社を選ぶための問いに、自分で答えを出すこと
企業研究とは、その会社で働いたら自分の毎日がどうなるかを、入社する前にできるだけ確かめておくことです。志望動機を書くための材料集めと思われがちですが、それは結果としてついてくるものです。
確かめずに入ると、どうなるか。2023・2024 年に就職活動をした 499 人への調査では、入社後に、調べていたイメージとのマイナスのギャップを感じた人が 63.1% いました[2]。調べなかったからではありません。同じ調査で、会社を深く調べるときに使ったものは、就活サイト 49.2%、就活口コミサイト 46.3%、検索エンジン 34.1%、採用サイト 27.7% で[2]、多くの人はちゃんと調べています。
ずれが残るのは、調べた量より、何を確かめたかの問題だと私たちは考えています。会社の情報はいくらでもあるので、問いが無いまま読むと、会社が伝えたいことを書き写して終わります。
調べることは、仕事・時間・人・お金・先行きの 5 つの問いに絞る
学生が「公式の情報より、口コミや SNS のほうがリアルだ」と思っている情報を見ると、知りたいことの中心が分かります。
数値を表で見る
| 公式情報より非公式情報のほうがリアルだと思うもの | 割合 |
|---|---|
| 社員の本音や不満点 | 50.6% |
| 実際の残業時間や労働時間 | 42.7% |
| 給与や待遇面などの実態 | 39.8% |
| 職場の人間関係や雰囲気 | 37.3% |
同じ調査では、公式の情報以外に口コミや SNS を確かめた学生が 70.6% いて、理由としては「ネガティブな情報も含めて判断材料にしたい」が 58.1% でした[1]。知りたいのは、働く時間、お金、一緒に働く人、そして良いことの裏側です。
そこで、調べることを次の 5 つの問いに絞ります。言葉は自分のものに変えてかまいません。
- 仕事: 入社 1 年目は、毎日なにをしているのか
- 時間: 残業は月に何時間くらいで、休みは取れているか
- 人: 配属先は何人で、困ったときにだれに聞けるか
- お金: 初任給の内訳と、3〜5 年後にいくらくらいになるか
- 先行き: この会社の事業は、何で稼いでいて、伸びているか
理念や沿革は、この 5 つを確かめたあと、志望動機を書くときに読めば足ります。5 つのうち自分にとって譲れないものを 1〜2 つ決めておくと、2 社で迷ったときの決め手になります。
企業研究のやり方は、会社の発信 → 公的なデータ → 人の声の順
問いが決まったら、出所の違う 3 か所で確かめます。順番は、会社が自分で出している情報、次に公的なデータ、最後に人の声です。最初に口コミを読むと、強い言葉の印象が残って、そのあとの情報を素直に読めなくなります。
| 場所 | 分かること | 気をつけること |
|---|---|---|
| 採用サイト・説明会・会社の動画 | 仕事の流れ、働く人、会社が大事にしていること | 会社が選んで出している。何が書かれていないかも見る |
| 求人票 | 給与の内訳、休日、試用期間などの条件 | 「制度がある」と「実際に使われている」は別 |
| しょくばらぼ(厚生労働省) | 残業時間、有給の取得、平均年齢などの数字 | 載せている項目は会社ごとに違う。更新日を見る |
| 有価証券報告書(上場企業) | 事業ごとの売上と利益、従業員の状況 | 上場していない会社には無い |
| 口コミ・SNS | 働く人の受け止め方、言いにくいこと | いつ・どの部署の・だれの声か。辞めた人の声に偏りやすい |
| OB・OG 訪問、カジュアル面談 | 配属先の様子、5 つの問いへの具体的な答え | 1 人の話は 1 人の経験。2 人に聞けると比べられる |
口コミで探しがちな数字は、公的なデータで先に見られる
グラフで学生が口コミに求めていた「実際の残業時間」は、口コミより先に公的なデータで見られることがあります。厚生労働省の「しょくばらぼ」は、会社ごとの残業時間、有給休暇の取得率、平均年齢などの職場情報を検索して比べられるサイトです[4]。
新卒の募集に応募する人、応募を考えている人には、もう 1 つ手があります。若者雇用促進法で、新卒者などを対象に募集している会社は、求められたら次の 3 つの種類から、それぞれ 1 つ以上の情報を出さなければなりません[3]。
- 募集・採用の状況: 過去 3 年間の新卒採用者数と離職者数、平均勤続年数など
- 能力開発の状況: 研修の有無と内容、メンター制度の有無など
- 雇用管理の状況: 前の年度の月平均の所定外労働時間、有給休暇の平均取得日数、育児休業の取得者数、管理職に占める女性の割合など
国の指針は、情報を求めたことを理由に不利益な扱いをしないよう会社に求めています[3]。採用サイトや求人票に載っていなければ、メールで「過去 3 年間の新卒採用者数と離職者数を教えていただけますか」と聞いてかまいません。求人票の欄ごとの読み方は求人票の見方にまとめています。
上場企業なら、有価証券報告書で「先行き」を確かめる
上場している会社の有価証券報告書は、金融庁の EDINET で誰でも読めます[6]。全部を読む必要はありません。事業を説明している部分で何で稼いでいるか、「従業員の状況」で働く人の様子を見ます。2023 年 3 月期からは、女性活躍推進法などで公表している会社は、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間の賃金の差もこの欄に載せることになりました[5]。
会社の動画・説明会の動画は、答えている問いと答えていない問いを分けて見る
説明会の動画は、会社がいちばん伝えたいことに時間を使っています。だから、見ながら 5 つの問いのどれに答えているかに印を付けると、会社が伝えたいことと、自分が知りたいことのずれが見えます。
- どの問いに何分使っているか(事業の説明が 20 分で、働き方が 2 分、なら働き方は自分で確かめる)
- 数字が出てくるか(「残業は少なめ」ではなく「月平均 15 時間」と言っているか)
- だれが話しているか(人事・役員だけか、配属先で働く人も出ているか)
- いつの動画か(数年前の説明会なら、数字や制度が変わっていることがある)
社員インタビューの動画は、話の具体さと、大変な話があるかで見ます。1 本の動画の中で何を見るかは、社員インタビュー動画の見方にくわしく書きました。見学や面談で職場の空気を確かめる方法は職場の雰囲気を入社前に知る方法にあります。
動画は、問いから探すと速く済みます。動画で就職の「残業や休みは実際どう?」のように、知りたい問いを選ぶと、働く人がその問いに答えている場面から再生できます。会社の側が求人ページの動画に何を置こうとしているかは、姉妹サイトの企業向けの採用動画の置き方と効果の記事を読むと分かります。
企業研究ノートは、事実・出所・残った問いの 3 欄で書く
ノートが会社案内の書き写しになるのは、欄が「理念」「事業」「福利厚生」のように会社の側の言葉で切られているからです。欄を自分の問いで切り、答えには必ず出所を付けます。出所が書いてあると、口コミの話と会社の発表を混ぜずに済みます。
【企業研究ノート】 会社名: 調べた日:
志望度(5 段階): 譲れない問い:
■ 仕事: 入社 1 年目は、毎日なにをしているか
分かったこと:
出所: (例: 説明会の動画 2026-10、12 分ごろ)
残った問い:
■ 時間: 残業は月に何時間で、休みは取れているか
分かったこと:
出所: (例: しょくばらぼ、前年度の実績)
残った問い:
■ 人: 配属先は何人で、困ったときにだれに聞けるか
分かったこと:
出所:
残った問い:
■ お金: 初任給の内訳と、3〜5 年後の給与
分かったこと:
出所: (例: 求人票。固定残業代の有無も)
残った問い:
■ 先行き: 何で稼いでいて、伸びているか
分かったこと:
出所:
残った問い:
■ 気になったこと(良いことも、引っかかったことも)
■ 面接・面談で聞くこと(残った問いから 3 つ)
1.
2.
3.
書くときは、事実と印象を分けます。「残業は月平均 15 時間(しょくばらぼ)」は事実、「みんな楽しそうだった(説明会の動画)」は印象です。印象は書いてかまいませんが、「何を見てそう思ったか」を一緒に書いておくと、あとで別の会社と比べられます。
2 社で迷ったら、ノートを横に並べ、同じ問いの行どうしを比べてください。最後の「面接・面談で聞くこと」は、そのまま逆質問になります。聞き方の例は面接の逆質問例にまとめています。
転職で企業研究をするときは、5 つの問いの前に、1 社目で困ったことを 1 つ書き足してください。「配属先に相談相手がいなかった」なら、それが次の会社でいちばん確かめるべき問いです。
AI は、調べ物より、ノートの穴を見つけるのに使う
ChatGPT や Claude に「この会社について教えて」と聞くと、それらしい答えが返ってきます。ただ、数字や制度は古かったり、間違っていたりすることがあります。AI が出した事実は、必ず元の情報(会社のサイト・しょくばらぼ・有価証券報告書)で確かめてください。
私たちがすすめる使い方は、自分で書いたノートを AI に点検させることです。次のプロンプトに、ノートをそのまま貼ります。
次は、私が就職先を選ぶために書いた企業研究のノートです。
会社についての事実は足さないでください(調べるのは私がやります)。
次の 3 つだけを答えてください。
1. 「分かったこと」のうち、出所が書かれていないもの
2. 事実ではなく印象で書かれているもの(例: 雰囲気がよさそう)
3. 5 つの問いのうち、答えが薄いものと、それを確かめるために
面接・面談で聞ける質問を 1 つずつ(相手が答えやすい言い方で)
# ノート
(ここにノートを貼る)
AI にノートを書かせると、自分の問いではなく、どの会社にも当てはまる文章になります。AI を就活全体で使う方法は就活 AI の使い方に書きました。ノートの穴が見つかれば、次に何を調べ、だれに何を聞けばいいかが決まります。


